第二十話「月の狂戦士」第二十話「月の狂戦士」あれは吹雪によって視界が悪かった山の中での出来事だった。 びゅうびゅうと、聞いただけでも凍えてしまいそうな激しい音をたてる吹雪に身を打たれながらも二人の男は対峙していた。 一人は黒のコートに身を包んだ銀髪の男。手にはあまり見かける事はない大鎌の柄が握られている。 もう一人は吹雪の中にも関わらず白装束のみを着ている黒髪の男。手には日本刀が力強く握られていた。 「―――――!」 二人は同時に走り出した。それは他ならぬ戦士としての決着を着けるため。そして敗北した者には死だけが待ち受ける過酷な戦いの開始の合図であった。 京都には『平和の塔』と呼ばれる巨大な塔が存在している。この塔は名前からしてある程度察してもらえるとは思うが、戦争終結の記念として建てられたのだ。 だが戦争が終結したと言ってもその戦争が終結したのも今から何十年の昔の話。終結当事は確かに平和になったのかもしれないが、時が経つごとにどんどん暗くなっていき、そして犯罪が増える一方である。 中でも最悪なのはイシュが機動兵器で暴れては世界各地で大騒ぎになっていると言う事だった。目的が何かも分らないので世界の人々は何時自分の身に災いが起こるか恐くて仕方が無い物なのだ。 だが、何と言う事か。この平和の塔は実はそのイシュの幹部クラスであり、最終兵器リーサル・ブレードを持つ相澤・猛が管理している、俗に言う秘密基地なのだ。つまり、イシュの京都基地なわけである。 そしてそんな猛はマーティオから奪ったサイズを眺めながら一人遠い過去を思い出していた。 戦いのキッカケは本当に単純だった。ただ相手が気に入らない、それだけである。 「………」 だが、その戦いの結果、白装束の日本刀使いは敗北してしまった。それもあっさりと、赤子のように。 相手の男の顔は今でもよく覚えていた。そして名前も。 「ガラリオ・V・ベルセリオン………」 ガラリオ・V・ベルセリオン。それがあの銀髪の男が名乗った名前だった。そして彼がその時使っていたはずの武器が、今彼の目の前にある。 そしてそのガラリオこそがあのマーティオの親父である。 「貴様は今何処にいる? この大鎌はお前のだろう」 自分以外には誰もいない空間で彼は呟く。 猛はガラリオに敗北した瞬間、死を覚悟した。冷たい吹雪に打たれているのだ。眠れば死は自然と訪れるだろう。 しかし、彼は生きるチャンスを与えられた。 遠い未来からやって来た男、ウォルゲムによって。 「願わくば、貴様との再戦を……!」 しかしその前に再戦しないとならない男がいる。 目の前にある大鎌を取り戻そうとしてくるであろう青髪の男、マーティオ・S・ベルセリオンだ。 マーティオは双眼鏡を使いながらも平和の塔を睨みつける。流石に中がどうなっているのかまでは分らないが、サイズがあることだけは間違いない。 何故そんな事がわかるのかといわれたら、隣にいる白髪の少女が感じる事が出来るからだ。 「おーしネオン。本当にあそこで間違いないんだな?」 マーティオがそう言うと、ネオンは無言で頷いた。 「……恐いか?」 不意に、マーティオはそんな事を言ってきた。これから猛とドンパチを始めるつもりではあるが、彼を恐れるネオンを連れてきては彼女は苦悩するだろう。 「………恐いのは猛だけ。他は恐くない。ジェットコースターも、ライオンも、お化けも、ジョーズも、ジェイソンも、エイリアンも、恐怖の大魔王でも。皆恐くない」 「OK、分った。………恐いんだな?」 ネオンはこくり、と頷いた。 「………でも」 「でも?」 「………何かがしたい。それだけ」 その時、ネオンの無表情な顔が少しだけ緊張に震えた感じがした。無表情と言う点ではマーティオも人の事は言えないが、それでも複雑そうだな、と思ってしまう。 そんな時、彼の携帯電話が鳴った。マーティオはそれを素早く取り出すと、何故か電源を切った。 それから十分もしない内にその場に轟音が響いてくる。 「くおおおおおおおおおおおおらああああああああああああ!!!!!! 何で人がわざわざ電話してやったのに電源切るのよあんたは!」 其処にやってきたのは私服姿の棗だった。彼女は全速力で走ってきたらしく、かなり息切れしている。 「いやご苦労。非常にご苦労。俺様はその無駄な努力を見るのが非常に楽しい」 「私は楽しくない!」 棗は思いっきりマーティオをぶっ飛ばした。と言うか、やっぱこの男、性格が悪い。 「………どうだった?」 ネオンの一言で我に帰った棗は此処に来た目的を思い出す。それはあの塔を調べる事だ。潜入操作と言うやつである。 顔が知られていて、尚且つ最終兵器と関連をもつマーティオとネオンを行かせたらそれこそ向こうが何をしてくるか分らない。 そこで、今回は忍者の皆様に協力してもらったのだ。以前猛に村を襲撃された事もあって彼等は二つ返事で承諾してくれた。 ただ、それでもマーティオの性格の悪さは相変わらずなのだが。 「中の構造は客が入れる範囲では8階。関係者のみが入れる範囲は客が入れる範囲を含めて13階ってとこね。地下もあるわ」 「で、俺様の大鎌は何処だこのゴリラ女」 むくり、と起き上がってきたマーティオを再び棗が張り倒す。 「客が入れる範囲を隅から隅まで探してみたけど、何処にもなかったわ。と、なると関係者のみが入れる残りの5階と地下って事になるわね」 「慎也殿と他に数名忍者が入り込んだはずだ。そっちはどうなっている?」 何時の間にか再びマーティオが起き上がっていた。しかし、頭に出来ているタンコブが妙に痛々しい。 「父上達は関係者のみが入れる区域を探索中。………なんだけど」 そこで、棗の顔が曇る。 「数分前に連絡が途絶えちゃったのよ。多分、手が離せない事になったんだと思うけど………」 時刻は深夜零時。もう警備が目を光らせている時間帯である。 しかし、そんな時であればあるほどマーティオという男は燃えるタイプだ。彼とネオンは棗に案内されながら塔の内部へと侵入する。 もうマーティオは待つのが限界らしく、突撃してしまったのだ。自分勝手とは正にこのことである。まあそれについてくる二人もお人よしなのだが。 「ほほう、マンホールから地下に繋がっているとは予想だにしなかったな」 彼等は下水道から此処に侵入してきたのである。今彼等がいるのは関係者のみが入れる地下2階だ。 「しっかしダンボールが山のように積まれているわね。何入ってるのかしら?」 確かに、このエリアはどういうわけかダンボールに満ちている。ダンジョンや迷路でも作れそうな感じで置いてあるんだから何とも呆れてしまう。 「気になるなら、覗いてしまおうホトトギス」 何だその言葉、と棗がツッコみを入れる前にマーティオが目の前のダンボール箱の中身を開く。 其処から現れたのは、 「………銃?」 しかもモデルガンではない。本物だ。流石に弾までは入っていなかったが、銃がダンボール箱の中に、しかもこんなに異様な数を揃えてお出迎えとは思わなかった。 「何処かと取引でもする気かね?」 そうだとしたら実に気に入らない。何とかしてあの猛に目に物見せてやれないだろうか。 そう考えた時、マーティオは気付いた。何処からかびしん、と言う派手な音が聞こえてくるのである。 「………」 彼は二人に静かにするように合図すると、自身はゆっくりとその音がする方向へと歩を進める。 「………」 辿り着いた先にあった物は扉であった。どうやらこの先から音が出ているようである。 「………何の音?」 「俺が知るか……何だこの音。何かを叩きつけているような」 まさか工事作業でもしてるのか、と思いながらも音はドンドン激しくなっていく。こうなったら中身を直々に確かめてやろうじゃあないか。 (よし、手榴弾準備OK) もしも敵がいたら速攻で投げ込んでやろうじゃないか。どうせ此処には敵がいるんだから敵さん大歓迎である。 「よし、1,2の3で突入するぞ。二人とも、準備はいいか?」 後ろの二人は無言で頷くと、マーティオは乱暴に扉を開けた。その瞬間、中の光景が明らかになる。 その瞬間、あのマーティオの時間が静かに停止した。後ろの二人も同様である。 「ほーらほら! 真夜中でこんな場所にやる奴はいないけど今我々はやっている! だからこそ今この試練を受けている貴方は最高に素晴らしくなるのよ!」 男がいた。しかも何故か肌を気持ち悪いくらいに露出させ、鞭を振りかざしている筋肉質な男だ。因みに『びびあん』と書かれた名札がついている。 そして鞭で叩かれている男もいる。コッチの男は何故か手首を縛られて身動き封じられているので、鞭を叩かれたい放題である。 「――――――――――――」 石化したマーティオ達はこの異常すぎる事態を飲み込めずにいたのだが、時間が経過するに連れてフリーズした頭が覚醒してきた。 そもそもなんでこんな時間、こんな場所でこんな異常な光景が起きているのかは知らないが、それ以前に彼等の身体に脳が伝えた。 『今すぐにこの場を立ち去り、そして封印しろ』と。 「さて、後ろにいる新しい生徒達。ちょっと休憩するからそれまでに―――――」 「いかん気付かれた!」 それだけ言うとマーティオ達は高速のスピードで部屋を飛び出し、扉を乱暴に閉めた。 「封印だ! 封印するぞ!」 その言葉を合図にマーティオは超強力接着剤とガムテープで扉をロックしようとする。棗はお札を何枚も張り付けており、ネオンに至っては何故か念仏を唱えている。 「あーこら! 何てことするのよあんた達! これじゃあ外に出れないじゃない!」 「構わん、それが世の為以前に俺の為だ!」 酷い発言だが何処か正解の様な気がするから恐ろしい。 そして5分にも及ぶ激しい扉封印作業の末、遂に彼等は扉を閉め切る事に成功した。 「よし、悪魔は我々に襲い掛からずに済んだ。我々は勝利したのだ!」 マーティオがまるで革命でもした市民のようにガッツポーズをすると、二人も続く。何か戦いの前に戦い終えた感じがする。 「やれやれ、一時はどうなるかと思ったわ」 しかしその直後、再び場が凍りついた。ふと振り返ってみれば、何故かびびあんがいるではないか。直視しては目が腐ると判断したマーティオは伏せる。 「き、貴様! 何故此処に!?」 このまま行けば「止めろぉぉぉぉ!!!」と絶叫しそうな勢いだが、それでも疑問を口にせずにはいられない。 「ああ、私も気付くには時間がかかったけどあの部屋は隣の部屋と繋がってるの」 世の中に神なんていない。マーティオはそう思った。 (いや、神なんてのに頼ったら終わりだ) そうなると彼等がする事と言えば敵地であろうがたった一つだ。 「逃げる!」 彼等はカートゥーンも真っ青の勢いで逃げ出した。 「あ! 待ちなさい、逃さないわよ!」 因みに、何で中国で生ゴミに捨てられたはずのびびあんがこんなところにいるのかと言うと、途中でおばちゃんから逃げ出す事に成功し、歩く変質者として扱われた後、輸送機に乗り込み(勿論密かに)、そのままこの場に住み着いてしまったわけである。 流石の猛もこんなのが外に出たら非常に騒ぎになると判断し、住む許可を出したらしいが、最近では自分の判断に珍しく疑問を抱いているらしい。 「棗! 何か奴を倒す術はないのか!?」 「そんな! あんな化物普通の術で倒せるわけないわ! 私自慢じゃ無いけど使える術がそんなに多いわけじゃ無いんだから!」 「ネオンにやらせるわけにもいかんだろう! 子供にあれは見せちゃいかん!」 変な所で律儀である。しかし、びびあんはどんどんこちらに迫ってくる。しかもクネクネ動きながら来るんだから不気味を通り越して不思議だ。 「おぉぉぉぉぉまちなさぁぁぁぁぁぁぁい!!!!!!!!」 びびあんがスピードを更に上げた。厄介な事に前回エリック達を餌食に出来なかった為に余計に気合が入っているのだ。 「あれ、エリックどうしたの?」 中国のとある宿でエリック・サーファイスは突然何ともいえない寒気を感じていた。ネルソン警部辺りが唸っているのだろうと考えるが、変に気色悪い感じがする。 「……なあキョーヤ。念の為に聞くけど生ゴミの日って過ぎたよな?」 「うん、それがどうかした?」 すると、エリックは安堵の息を吐いた。 「いや、いいんだ。悪魔が世から消え去ったんだ」 だが、その悪魔が日本で、しかもマーティオ相手に大暴れしているとは知らなかった。 「猛様、侵入者です」 相澤・猛の私室に部下がやってくる。マーティオ達の侵入の報告の為だ。 「そうか、何人だ?」 「3人です。中にはアローも……」 成る程、あの小僧本当に来たか、と猛は思う。去り際のとき、マーティオの目を見た彼は必ずこの男はリベンジに来ると確信していたのだ。その隠し切れないほどの激しい闘志がそれを物語っていたのだ。 「しかし、問題が」 「どうした?」 「何と言いますかその………例のびびあんと名乗る者に追い掛け回されておりまして」 それを聞いた猛は一瞬にして顔が青ざめた。 「………始末しろ。それから青髪の男は俺のところに連れて来い」 「他はどうなさいましょうか?」 「アローは捕獲しろ。例のマシンソルジャーを使っても構わん。もう一人は殺せ」 それを聞いた部下は丁寧に腰を折ってから部屋を退出した。 それから数分もしない内に武装した黒服の男達がマーティオ達の前に立ち塞がる。イシュの戦闘兵だ。 「邪魔だ今畜生!」 しかしマーティオは邪魔だとでも言わんばかりに手榴弾を投げつける。今この男にとって一番の脅威は武装した裏組織の戦闘兵よりびびあんという怪物なのだ。 「くそ、まさかこんな事態に!」 しかしそんな時、何処からか声が聞こえてくる。 「困っているか青少年達よ!?」 聞いた事がない声だ。その為、彼等は思わず声のする方向へと振り返る。 「其処に困った人がいる限り! ヒーローは必ず其処に現れる!」 次の瞬間、何故か床が盛り上がった。そのまま突き破って登場したのは何故か特撮ヒーロー物に登場しそうな格好の男である。 「警官四天王が一人、ヒーロー警部此処に大見惨!」 其処まで聞いた瞬間、マーティオはびくり、と震えた。警官四天王と言えばあのサイボーグ刑事を連想させるからだ。 どうやらどうやって此処にやって来た、とは突っ込まないようである。そんな余裕がないのだろう。 「さあ困っている少年少女たちよ! この私に任せるがいい!」 「よし、じゃあアレ頼んだ!」 それだけ言うとマーティオは普通にヒーロー警部を素通りした。 「は?」 ヒーロー警部はマヌケな声を発したが、すぐにその言葉の意味が分った。びびあんが迫ってきているのだ。 「うおおおおおおおおおおおおお!!!!?」 今、ヒーロー警部は史上最大の危機を迎えていた。しかし、彼は同時に思った。 (これはもしやヒーローが必ず迎える危機というものなのか!?) つまり、これは神がヒーロー警部に与えた究極の試練と言う事で彼は捉えたのである。 (ならば乗り越えてやろう! 何故ならそれが) 彼の知るヒーローなのだから。 「なぁぁぁぁぁぁぁ!!!! 変態の次は兵隊の群れか!?」 マーティオは珍しく走っていた。しかも叫びながら。 彼等三人を追うのはただの兵ではない。機械で出来たマシンソルジャーである。右手には鋭い刃が、左手にはライフルが装備されていた。 そのライフルが次々と乱射される。そして3人はこれを必死に回避していた。 「ちょっと! この状況をどうやって回避する気なの!?」 「んな事考えてる余裕あったら避ける事考えな!」 何とも冷たい一言である。しかし今は避けなければ死ぬのだ。 「ネオン! 何とかできないか!? 今一番頼りになるのはお前だぞ!」 年下の少女に頼ると言うのも情けない話だが、生憎一番頼りになるのは最終兵器でもあるネオンなのだ。 「……無理」 だが、あっさりと却下された。何故なら、前からも敵の団体さんが出てきたからだ。後ろだけの一方の攻撃なら可能だが、流石に全体となると棗にマーティオまで攻撃してしまう。 「前からも……!」 一番先頭のマシンソルジャーから網が放たれる。それは一瞬にしてマーティオを確保し、彼を連行する。 「だー! こら待て畜生! てめぇ、後で溶岩の中に突き落としてやる!」 連行されながらもマーティオは元気だ。しかもこの男の場合は本当にやりかねないから恐ろしい。 そんな事を思いながら残された二人は機械兵に囲まれてしまった。 「来たか」 猛はそれだけ呟くと、やってきたマシンソルジャーは青髪の青年を解放する。 「………」 マーティオは静かに猛を睨んでいた。もうマシンソルジャーなんてどうでもいいようである。今彼の頭にあるのは猛へ屈辱を100倍にして返す事だけだ。 「小僧、貴様が使う武器だ。受け取れ!」 猛がそう言うと、彼の背後で飾られていたサイズが自動的にマーティオの手の中に収まる。 「……どーいう風の吹き回しだ?」 「俺はな。敵が向かえば向かうほど燃えるタイプなんだよ。特に1対1のサシなんか最高だ……!」 猛の顔が不気味に歪む。 「貴様の目を見た俺は思った。この小僧は必ず俺の下へリベンジしてくる! そしてその瞬間がやって来た!」 猛がブレードをマーティオに振りかざす。 「予想よりも早かったな。だが実力差は変わらんぞ。レベル4を使えない今のお前ではな!」 マーティオはバルギルドに言われた言葉を思い出した。 (俺様がその気になれば……使える!) しかしそんな事はどうでもいいと言わんばかりのタイミングで猛が吼えた。 「小僧、俺は向かって来る敵なら容赦はしない! 特にサイズの持ち主として選ばれた貴様だけは絶対にこの俺の手で倒す!」 そう、ガラリオが元々持っていたあの武器をこの青髪の青年が持っていると言う事が癪に障るという事実があるのだ。それならばこの男をサシで倒して、あの大鎌がガラリオの物だと証明しなければならない。彼がマーティオを連れてきた真意は純粋な戦いなのだ。 「相澤・猛。貴様がサイズとの間に何があったのかは知らないし、貴様の趣味なんぞ知ったこっちゃねぇ。だがな、俺様も売られた喧嘩は買う主義なんだよ!」 マーティオは大鎌を思いっきり振り回すと、その曲刃を向けた。 「そうだ、その闘争本能を全て向けてくるがいい! 俺はそれをも打ち負かしてやろう!」 猛のブレードがいきなり不気味な光を発する。それはレベル4発動の合図だ。 (石にされるなんてのはたまらねぇ) 手榴弾すら無力と化すその能力は確かに侮れない。だが、彼には勝つと言う事しか頭にない。 「――――――!」 だが、どういうわけかサイズが何もしようとしない。いや、やろうと思っても出来ないだけなのだ。先ほどからマーティオがレベル4を発動させるように念じてはいるが、サイズは何もしようとはしない。 (どう言う事だ!?) やはりバルギルドの言葉は嘘だったのか。そもそもあんな胡散臭い男の事を何故信じる気になってしまったのだろう。 マーティオに後悔の念が襲い掛かってきたと同時、猛がブレードを横に一薙ぎした。それはそのまま強烈な風を石の刃と共にマーティオに襲い掛かる。 「ち!」 舌打ちをしてバリアを展開するが、なんと風圧だけで彼はバリアごとぶっ飛ばされてしまった。まるで風に飛ばされるゴミのようである。 「!?」 そのまま壁に叩きつけられたマーティオはサイズのバリアを解除して再び猛を睨んだ。後ろには逃げる道はない。何故なら先ほど叩きつけられた際に壁が崩壊し、地上13階の高さが丸見えの状態だからだ。落ちたら無事じゃすまない。 「どうした、威勢だけは良くなったようだが実力は以前と変わらんぞ」 猛がじりじりと歩み寄ってくる。いきなりこんな大ピンチとは予想外だ。せめてもう少し粘れない物だろうか。 不意に、マーティオは後ろを見る。そこには崖の様になっている途切れた床と満月だけがあった。 (ちぇ! 満月に照らされながら死ぬなんて……) そう思った瞬間、いきなりマーティオの心臓が跳ね上がるように動き出した。 グレーのコートに身を包み、銀髪の髪を夜風に靡かせながらバルギルドは満月を見上げていた。そして誰と喋ることなく、一人でぶつぶつと何か呟いている。 「最終兵器のレベル4はブレードのように何時でも発動できる物があるが……実は特定の条件を満たさなければ使えない物もある。サイズもその一つ。その能力は――――」 バルギルドは不気味な笑みを浮かべながら呟いた。 「バーサーク。持ち主の理性と引き換えに月の光で圧倒的なパワーを身に付ける。発動条件はズバリ、月の光をサイズが浴びる事だ」 「うおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!」 マーティオが吼えた。明らかに筋肉が膨れ上がっていくのが分る。しかも目の色が青から銀に変色し、耳の形が尖がっていく。 「―――――!?」 凄まじい衝撃が、吼えたマーティオから放たれているのが分る。先ほどの様なクールな印象は完全になく、最早一匹の獣と化していた。 「まさかこれがサイズのレベル4なのか!?」 驚きの表情を隠しきれない猛は、それでも変わり果てたマーティオを見る。どうやら変化は収まったらしく、彼は落ち着いた表情になった。 「ひゅう!」 マーティオが大鎌を振るったと同時、光がまるで鞭のように襲い掛かってきた。 その恐ろしさを肌で感じた猛はそれをギリギリで回避。すると次の瞬間、13階建てのビルが見事に『ぶった切られた』。 「な―――――!?」 そのまま切られた部分は重力に逆らえずに、轟音を響かせながら大地に降り注いだ。猛達がいる階は一気に半分もの面積を失ってしまった事になる。 「ふ……ふふふふふ」 何が可笑しいのか、マーティオは身体を震わせながら笑っていた。だが、その笑いは本当に見ただけで気絶してしまいそうなほど邪悪で、そして歪んだ笑いだった。 「あぁぁぁぁぁっひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!!」 最早人としての言葉をも失ってしまったのか、マーティオの狂気に満ちた瞳と共に、場を彼の狂った笑い声が支配した。 次回予告 エリック「おいおいどうなったんだマーティオ!? 全然人が変わっちまってるじゃねぇか。前まではあくまでも静かなタイプだったのに……!」 狂夜「これは危険だね。リーサル・サイズのレベル4の力を見くびってたみたい」 エリック「だがよ、マーティオ。猛はお前が絶対、ちゃんと理性を持って勝たなきゃならないんだぜ。そうじゃないと、お前怒るだろうが!」 狂夜「次回、『起きなさい!』」 ネオン「………マーティオ、うぇいくあっぷ」 第二十一話へ ジャンル別一覧
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